サンパピアンソロを終えて:アンソロジー主催後記


はじめに

2020年9月20日、『きみの選択。4』において日本初となるサンパピアンソロジーを発行した。

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表紙(カバー)
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初頒布の様子(きみの選択。4)

アンソロジーの主催は色々なことが初めてで、苦労も多かった。でも、気合(と多少の金銭的余裕)さえあればなんとかなるものだとも思った。
それに、完全に絵が描けない(コメントカットのイヌくらい)人間でもアンソロジーを主催し、発刊に至ったのはそれなりに参考になるのではないかと思う。
この先サンパピ(に限らずだけど)への情熱溢れる方が後に続くことを祈って、そしてそもそも自分ですら喉元過ぎて熱さを忘れかけているので、この備忘録を記しておきたい。

諸注意

  • 主に、アンソロジー本体を読了済みで手元にある方を読者として想定しています

絶賛発売中なのでまだの方は是非お買い求めください。でも一般的なスケジュールの話とかもしています。
https://haminori-hamster.booth.pm/items/2338412haminori-hamster.booth.pm
alice-books.com

  • 例示のためにサンパピ以外のCP作品を引き合いに出す場合がありますがCPの具体的な描写はしないのでご了承ください
  • (関係者の方へ)もし本当は公開してほしくなかったことがあったら教えてください

何をしたか

  • 発刊までのスケジューリング
  • 原稿執筆の依頼
  • 表紙・宣伝フライヤー・ポストカードなどイラストの依頼
  • 寄稿頂いた原稿の編集・入稿
  • (主にTwitterでの)宣伝
  • 即売会・通販での頒布
  • アンソロジーに関する全ての最終決定

スケジュール

2019年

9月~12月
  • 決意表明

「アンソロジーやりたい」という思いを口にし、親しい方々に相談する。

  • 計画

有識者にアンソロジーを制作する際のスケジュールについて意見を伺い、発行日や締切を設定する。
また、アンソロジーのタイトルやコンセプト、レギュレーション、サイズ(A5)など最低限のフォーマットを決め、寄稿者様用にHP上でまとめておく*1

12月8日
  • アンリミ5一般参加

企画公表前としては最後の即売会(正確には1月にやさたんがあったものの、新規で寄稿を依頼する予定の方とお会いできたのはこれが最後だった)となった。
Twitter上で交流のあった方に「アンソロジー寄稿しませんか」と軽く声掛けさせて頂く。

2020年

1月~2月
  • 執筆依頼

主にTwitterのDMなどで依頼。

~2月
  • フライヤー依頼

イラスト・デザインをそれぞれ寄稿者であり日頃親しくさせて頂いている方に依頼する。

3月8日
  • 情報公開

サンパピの日に合わせてアンソロジーの刊行およびフライヤーイラストを告知。

寄稿者の皆様に対してノベルティの希望調査を開始(4月初旬まで)。

3月~
  • 表紙・カバー依頼(~8月)
  • 原稿作成要項の公開
3月〜4月
  • きみ選3・アンリミ6参加予定だった

ちょうど時勢がもっとも厳しかったため、フライヤー頒布が行えなくなる。
代わりに、通頒する際のおまけとして自分+ご協力頂いた有志のご作品に付属でフライヤーを付けることにする。

5月~

ノベルティのひとつ、『サンパピ覗き見SNS風ポストカード』のイラストを寄稿者の中でご協力頂けた皆様に正式に依頼(締切は7月上旬)。

6月中旬
  • 中間報告

大体のページ数・傾向(健全/R-18)についてアンケート。
これを元にぼんやりと掲載順など考え始める。

6月末
  • 原稿提出フォーム設置
7月下旬
  • 原稿締切
  • 原稿チェック
  • サコッシュイラスト・デザイン正式依頼
7月末〜
  • 編集作業
8月9日
  • アンリミ6サークル参加

フライヤーをここで初めて頒布。
また、合わせてカバーの画像も初めて公開する。

8月中旬〜8月末

ただし、入稿直後は諸々不備があったため最終的に脱稿したのは8月下旬となる*2

8月下旬
  • サンプル公開

1日1作品ずつ紹介していく。予約開始前日(8月29日)までに全作品およびノベルティを紹介。

  • 献本についてのご連絡(献本方法のアンケート)
8月30日
  • 通販予約開始

エアブーに合わせてアリスブックス(通常版)・BOOTH(フルノベルティ版)で予約を受け付ける。

9月12日

アンソロジー本体のBOOTH発送分が自宅に届いたため、ご都合が合う方とdiscordで動画中継による開封式を行う。
Twitterでも宣伝アカウントで写真をアップロード。

  • 郵送分の献本準備

BOOTHを利用した匿名配送で献本。
発刊日までには届くようにする。

9月20日
  • 頒布・現地献本

きみの選択。4にて。

9月21日〜
  • 自家通販分の発送


そしてこれ以降も、会場頒布および通信頒布を行っていく予定。

アンソロジー仕様

装丁

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実はダブル表紙
  • カバー:新シェルリンN プレーン

  オプション:カレイド印刷、箔押し(金)、特色(金)

  • 表紙:ホワイトポスト+マットPP
  • 口絵:見開き片面フルカラー
  • 本文:美弾紙ホワイト

「健全(?)」と「R-18」の二部構成が決まった初期段階から、ダブル表紙を計画していた。
何度か試し刷りを行い、最終的にカバーはきらきらの紙で、中の表紙はしっとりとした質感でふたりを表現することにした。カレイド印刷はRGBをきれいに出力するために選ぶ。
特色(金)は「sans × papyrus Anthology」の縁取りに使用している。もともとは全て箔押しの予定だったが、「細かすぎてズレるかもしれない」と印刷所の方にご指摘・ご相談頂いたことでこの部分だけインクで表すことにした。結果として全くズレなくきれいに印刷していただき、本当に感謝している。

本文もモンテシオン・モンテルキア・美弾紙コスモス/フィジーなどの魅力的な紙の中でかなり迷ったが、最終的に厚み・手触り・作風を考慮して美弾紙ホワイトを選定。


余談として、その前の年に出ていたsorielアンソロジーを参考にさせて頂いた部分も多いのでもしよかったら並べて見比べて欲しい。
https://alice-books.com/item/show/7879-12alice-books.com

レギュレーション(20210106加筆)

同じカップリングについて考えていたとしても、必ずしも方向性が統一されるとは限らない。
今回、せっかく主催するということならどうしても「自分が考えた最強の推しカプアンソロ」を作成したかったので、このような制限を事前に設定させていただいた。

  • 形態(イラスト、漫画、小説)は自由
  • ページ数は1pから自由
  • ルート(N, P, G)や時系列は自由
  • 進めようとする関係性の段階(手繋ぎ、キス〜性行為)は自由
  • 実際に進展が成功したか(あるいは失敗してしまったか)は自由

ただし、アンソロジーのポリシーにより以下の事項についてはご遠慮頂いています。

  • 派生AU・オリジナルキャラクターの描写
  • 無知シチュ・レイプなど合意のない性的描写
  • 暴力表現・グロテスク描写
  • リバーシブル(パピルスからサンズへの挿入)描写

こちらに基づいて、もし寄稿者の方からレギュレーションに抵触しないか不安があった場合はお問い合わせ頂いたりしていた。

使ったもの・サービス

もともと小説を書いている時に使っており、今回は原稿の編集・入稿までをほぼこれひとつで行った*3。漫画を描いてる人はクリスタを使うのかもしれない。

一通りの画像処理(白黒反転させたり)をやる機能が揃っている。さすが高額のライセンス料を払っているだけある。ただ、フルスペックの活用はできていなかったかもしれない。

  • discord

サーバーを立てて、寄稿者様への連絡を行った。全体連絡は皆様で共有して齟齬がないようにする一方、イラストの依頼は関係者のみで進めていくなどの柔軟な連絡が一箇所に集約できた。

  • 印刷所

非常にお世話になった。今回、はじめての編集作業が多く(というのは言い訳だが……)、かなりケアレスミスがあったのを全て拾っていただいた。締切には余裕を持って出すべし……。

  • BOOTH

フルノベルティは手元の在庫と相談しながらの頒布だったので、自家通販で在庫を調整できるBOOTHは便利だった。

  • アリスブックス

界隈(の女性向け同人)で一番使われている書店。本当に対応が早く、また細やかな対応をして頂けた。
東京の即売会後、大阪で頒布するために在庫を一部送って頂いたりとちょっとした倉庫のようなこともお願いできた。

やって大変だったこと

企画発案・原稿執筆依頼

精神的な負荷としてはここが一番大きかった。

この段階ではまだアンソロジーに繋がるものは何も形になっていない。技能もあるかわからない。ただ気持ちしか存在しなかった。
それでも親しい友人の皆様に「アンソロジーが作りたい」と打ち明け、ご声援を頂いたことで一年発起して声掛けに乗り出した。

また、原稿執筆依頼の段階ではやはりほとんど界隈における実績がない人間だったので、声掛けはかなりのプレッシャーだった。
事前に知り合いの方に予告していただく、文面を友人に見てもらうなどしていたが、最終的にはエイヤでご連絡のDMをしていくしかなかった。

それでも、ご快諾でも、あるいは残念ながら……という場合でも、非常に温かいご反応を頂けたのが本当に精神的にありがたかった。

ご時勢対応

3月~6月くらいの即売会がご時勢により延期となったため、フライヤーが中々配れなかった。
その対応として、通販でフライヤーを「フライヤーセット」として頒布することにした。


有志の方々にご協力頂き、BOOTHやアリスブックスで同人誌を購入頂いた方にフライヤーを付けていただく。
全年齢作品でもフライヤーを付けるとR-18として頒布していただいていたため、手間としては大変なものだったかと思う。それでも快くご協力頂いて、非常にありがたいことだった。

また、あまり目に見える場所でしょげていると関係者に不安感を与えることがあるので、しょげないようにすることは意識していた。

イラスト依頼

本当に楽しく、そしてプレッシャーが大きかった。
フライヤー、表紙&カバーとイラスト素材は全てお願いせざるを得なかった。ご寄稿に関しては初対面の方でもなんとか円滑に終えることができたが、こちらの要望に応じて細かくやり取りしながら完成品を作り上げていく……という工程は、ある程度面識があり「こいつになら力を貸してもいい」と思っていただける程度の関係がないと相当難しかった。それだけ、非常に多くのことをお願いさせて頂いた。

準備としては、まず企画を立ち上げる段階で「イラストをお願いするかもしれません」と何名かの方にご了承を頂き、実際に必要になったタイミングで依頼した。

ご快諾頂いてからの基本的な流れとしては

(依頼側)「こうしたい」というイメージを伝える
 ↓
(絵師様)ラフ案を出す
 ↓
(依頼側)「〇〇が気に入っている、△△はこちらのバージョンも見たい」とフィードバックする
 ↓
(絵師様)フィードバックをふまえて再度案を出す
 ↓
 依頼側がOKを出したら次の工程へ(以下繰り返し)

となる。各々の生活や原稿もあるので、かなり余裕を持ったスケジュールを組んでいたが、結果的にちょうどよかった。

反省点として、「わからないことまでは頑張らず、素直にお任せする」ということが挙げられる。
最初は「アンソロジーの表紙」を構成する要素があまりにもわかっておらず、それでも頑張ってイメージを伝えようとしたことで却って戸惑わせてしまった。全くわからないなら大人しく「サンパピが関係進展する、というキーワードからアイデアをお伺いできますか」と任せるべきだった。

編集作業

本格的な編集は初めてだったので、事前段階ではこの工程についてもっともプレッシャーを感じていた。漫画原稿を扱う機会にはどうしても恵まれなかったため、

  • 必要な道具は揃えておく。Indesignに加えIllustlatorと、使わなかったがクリスタも念の為無料体験期間が編集の時期と被るようにしていた
  • 「アンソロジー 編集」「モアレ」「グレースケール モノクロ二階調 違い」などの検索結果で得られる知見を片っ端から読み込んでおく
  • 礼儀を尽くした上で有識者からコツについてご教授頂く*4

などの予習をした上で、本番に挑んだ。それでも想定とは異なる事象に対処しなくてはならなかったので、どうにもならないことは頭を下げて解決策を得た。

細かい意思決定

イラストの依頼からノベルティの選定、通販の有無や方法の選定、あるいは宣伝アカウントの方向性についてまで。今回は自分が全て責任と権利を引き受ける方式で進めた*5
何かを決定する時にはそれなりに体力(いわゆるHPもMPも)を使う。それが連続したことで、途中段階でかなり疲労していたことに気づいた。適宜、親しい友人の方々に悩みを共有し、解消させて頂いた。

主催してよかったこと

同志の方から新鮮な推しカプが頂ける

アンソロジーを主催すれば当たり前のことではあるが、実際の衝撃としては予想以上だった。

既に交友を深めさせて頂いた方からも、また今回のアンソロジーがきっかけで交流を持つことになった方からも、等しく素晴らしい推しカプを頂くことができた。

数々のイラストを依頼させて頂くのは大変申し訳ないことだったが、それでも、今回のテーマについて様々な思いを巡らせて頂き、数々の素敵な推しカプのイメージを描いてくださったのに対して感謝をお伝えしつつどれを具体化させたいかわくわくしている時間はとても楽しかった。

発刊後、推しカプが増えた気がする

気のせいかもしれない。
でも、心なしか新規で推しカプを推す方がいらっしゃった気がする。あるいは、界隈にいる人も最近よく推しカプを生み出してくださる、気がする。
ただ単に、アンソロジー主催を通じて自分の推しカプを見る目が更に強化されただけかもしれない。それでも、推しカプが以前より増えた気がする世界は、自分にとって幸福である。

これからアンソロジーを作ろうとしている方へ

最初から最後まで、支援してくださる周囲の方々がいなければゴールどころかスタートすることすらできなかった。
でも、「アンソロジーを企画し、発刊まで情熱を持って取り組もうとする」という意志はそれ自体とても稀有なものである、だから周囲の方々も「協力してもいいかも」という気持ちになりやすいのではないか、ということにも気づいた。
だから、「ぜったいに(いつかは)発刊する」ことを何よりも大事にしながら、周囲の方々の力も借りつつ目標に向かっていって欲しい。


そして、もし発行に至ることができた暁には、是非主催として辿ってきた道のりを教えてください。

*1:具体的なリンクは書きませんが、主催を決心した方からお問い合わせ頂ければ共有します

*2:それでも早割の締切内ではありました

*3:画像処理が不要ならこれだけで大丈夫だった

*4:原稿の編集に限らず有識者の方には本当にお世話になりました

*5:色々やり方はあると思いますが、ほぼオンラインでしか連絡の取れない複数人で最終決定を連続していくよりは自分一人で決めた方が根本的には楽だと思いました